標榜科目について
ホームページをパソコン閲覧用から、スマートフォン閲覧用へ変更いたしましたのを契機に、折に触れブログを書くことといたします。
今回は初回で、標榜科目について書いてみます。
病院やクリニックで標榜科目を掲げるときは概ね担当医の専門領域であるのが一般的で、また周囲もそんな風に受け取ると思われます。
ところが、現実は専門領域以外の標榜科目が掲げられていることも少なくありません。
これは、医師免許があれば、どの科目を専攻標榜してもかまわないという制度上の問題と思われます。
自動車の運転免許だと、普通自動車、大型、大型特殊とか、それぞれの車種に応じた免許が必要なのとは大きな違いがあります。
もっとも、外科系や産科などでは、専門の研修をこなさないと標榜するのは困難なため、未経験者が名乗ることは皆無といえるでしょう。
ところが、皮膚科、眼科、精神科などのマイナー系診療科では、未経験者が安易に標榜することが少なからずあり、問題を起こすことも見受けられます。
皮膚科や眼科の専門医であれば、専門領域以外にも皮膚疾患、眼疾患を鑑別する能力にも習熟しているため、内科でも発見が遅れるシェーグレン症候群やベーチェット病などの膠原病の早期発見することも珍しいことではありません。
精神科の専門医、精神保健指定医であれば、医療保護入院や措置入院の必要性の有無を判断することができ、メンタル疾患へも適切に対応することが期待できますが、稀に精神科での研修歴がないのに安易に標榜することにより、様々な問題を起こしていることがあります。
専門医を取得するためには、専門の施設での研修や論文、学会発表などの業績をもとに受験資格を得て、ようやく専門医試験を受験するという過程を取るため、医療機関や医師の標榜科目の信憑性を判断する有用な基準になると思われます。
もっとも、心療内科という科目の標榜についてはとても誤解されやすいと思います。
心療内科というと心療の部分が強調されて、メンタル疾患を専門に取り扱う診療科と捉えられ、実際、担当医も精神神経科専門医ということがほとんどではないでしょうか。
ところが、心療内科は正しくは、循環器内科、呼吸器内科、消化器内科等と同様、文字通り、内科系診療科となります。
膠原病や甲状腺疾患などの内分泌疾患では精神症状を伴うことが多いため、内科系疾患の診断治療はとても重要です。
過敏性腸症候群だと思っていたら潰瘍性大腸炎などの炎症性疾患だった、動悸がするのでパニック障害で治療していたら発作性上質性頻脈やWPW症候群だったということも見受けられます。
また、向精神薬投与により薬剤性肝障害を起こしたり、薬剤の有効血中濃度を測定するための採血検査、QT延長症候群などの不整脈をきたすことがあるため心電図検査をすることが必要不可欠といえます。
(ただ、診療所によっては、頻回に採血、心電図検査を行っている所があり、これはこれで問題があると思われます)
さらに、心療内科学会や心身医学会では、メンタル疾患の患者では、空気嚥下症、呑気症をきたすことが多いため、大腸ガスの貯留の重要性を強調しており、腹部X線撮影なども有用な検査となります。
このため、当院では、心療内科を標榜するのでは、最低限、採血、採尿、心電図、X線検査を行うべきというスタンスのもと、これらの検査機器に加えて、肺機能検査、超音波検査、ホルター心電図、睡眠時無呼吸検査、重心動揺検査、自律神経機能検査などを揃えています。一方で、保険適用のある心理テストは全て常備しており、専門の心理職による心理テストの解析とフィードバックによる心理療法を行い、心身両面からの取り組みに力を入れています。
あと、残念なことに心療内科を標榜する医師のほとんどが心療内科学会、心身医学会にすら所属していないのが実態で、両学会での大きな懸念事項になっています。多くの場合、標榜科目の学会へ所属しているのと比べ、心療内科は安直に捉えられていると思われます。
精神科の専門医は、当然精神神経学会へ所属しており、精神神経科やメンタルクリニック、心のクリニックなどを標榜するのは理解できますが、心療内科を精神疾患の診察のハードルを下げるために便宜上標榜するのは、羊頭狗肉といえるかもしれません。
やはり、心療内科を標榜するのであれば、せめて、心療内科学会や心身医学会へ所属して、研修会等へ参加して研鑽を積み、最低限の内科系疾患の診察検査を行うべきと思われます。
心療内科へご興味のある方は、著書「心療内科とは何か」(幻冬舎)をご一読ください。